桜の木の下にはしたいが埋まっているよ

たまに咲いてる桜があるな、と思っても電車はとても速いから、本当に咲いていたのかどうか半信半疑になるくらいの間目にするだけ。並木のなかに一本だけ先走って咲いているような桜があるのは、別にノリで咲いてしまったとかではなく、日照時間の関係なんだよ、と誰かが前に言っていた。前というほどでもなく、多分けっこう最近の話だったかな。いろんな人がいろんな話を僕にする。それは現実的だったり、逆に夢のような内容だったりするのだけど、誰がそれを話していたのか、ほとんどのときにはもう思い出せないので、頭に浮かぶのはエッセンスとあとはおぼろげな声の雰囲気なんかだけ。なんで?つまり、それはあまり重要じゃないってことなのかもしれない。だれか、女のコの声だったような気がするんだけど。

昨日、テラス席で店員から受け取って、えいやっと持ち上げた灯油ストーブの匂いに今年はこれで冬が終わるんだなと思った。年のはじめの灯油ストーブの匂いは冬の始まりの印象、じゃあ年のおわりのそれは?っていうと、僕にとっては春ではなく冬の終わりなんだな。春なんてのは放っておけば勝手にやってくるんじゃないかって気がする。

一緒に飲んでいた人は寒かったみたいでどんどん調子が悪くなっていくみたいだった。確かに桜もほとんど咲いていないんだ。となりでは灯油ストーブがぼおおと唸っていた。せめて、あの電車から見た桜がその辺にあればな、と思ったけど、電車はとても速いから、ほんの少しの間印象に残るだけで、すぐにだれにも追いつけない昔になってしまう。